やぶにらみ見聞録

  面を選ぶには?  P−3       

      どこを見るか? どう使うか? 何を求めるか?        


  職人会では部品名から考え直します。 そしてその役目を? 
面に何を求めるか?  着装時の基本事項を考えてください。
 今面を購入するに当たり剣士の皆様は何を面に求めますか?   良い面を!と言われますが良い面とは?
 物見が合うことは当然として 使いやすさとなじみが第一と多くの剣士が言います。 
 その結果まず面布団の口閉じ下の布団長さと柔らかさが第一のようですが、布団長さを問うのはなぜでしょうか? 
 何故短いのが良いのか? 正確な理由をお答え出来ますか?
 次になじみやすさ!。  なじみやすさとはいったいなんでしょうか?
まず 皆様に伺います。

 面金の内側はなぜ赤い色に塗ってあるのでしょうか  

面縁革も中側が赤く塗ってありますがそれもなぜでしょうか? 
赤色が塗ってあるには理由があるはずです。

 日本食でお吸い物がお椀で運ばれてきますがそのお椀の内側はなぜ赤色が塗ってあるのでしょうか? 
 お盆、重箱、屠蘇器、升(マス)の内側、曲げわっぱ小判弁当箱、そば打ち捏ね鉢、等、数え上げたらきりがないくらい数多くの内側が赤い器が日本にはあります。
 それらの多くは漆塗り仕上げがされているのも理由の一つですが、すべての器に共通する事項がまだあります。
 それこそが面の内側に塗られた赤色の理由。

  赤い色をバックに目的物を見ると、バックに何もない時に比べ対象物が鮮やかに見えるという事。 吸い物椀の中身の具、調理人が拘る季節素材が鮮やかに見えるのもその為です

 面を着想して相手と相対したとき、赤色がバックカラーの時こそ視線の先(相手)の動きがはっきり見える効果があると言う事。  
 これこそが最大の理由です。


 面着想時、まず目に入るのは面金、そして頬輪(ほほわ)(内輪、うちの輪)と火打ち(天地)、2重顎があります。

 まず赤い面金の色が見えますが、頬輪の外側、面縁革の赤い色部分は見えますか? もし左画像の面を着装したならば、全体の丸い赤色円形の視界から視線が相手側に集中し、外部の動きが邪魔にならず、相手の動きがはっきりと見えてくるはずです。

 その働きを助けるため面金内側、面縁側内側を赤く色塗りしてあるのに、一時は面金や面縁革に色の塗ってない物やブラック面金などが出回りましたが、最近の面は又元の色(基本色)に戻っています。 何故でしょうか?
 
 道場などの照明はあまり明るい事は無く、面縁革内側が他の色の場合と赤色と比べると、その対象物があまり判明せず、目に対する疲労度が違うと言われます。

 相手の動きを正確に速やかにとらえるには断然赤色が有利で、
 黒い面金や色なし面金が本当に遣い易くよい物ならもっと定着するはずです。 
 

面を選ぶ基準点


  多くの最近の面に見られる傾向


 着装の際、面を同じ位置から見たとき、上画像の面との違いがお判りですか?
  上の面とこの面の円形の面積を見比べると、頬輪取り付け方の違いで円形面積の違いが良く判ります。
 同じ11本の横棒が見えますが、双方見れば視界の差は歴然。  (視界については下のペ−ジを)

 下の面は、面金横棒の赤色は見えますが面縁革の赤色は全くと言って良いほど見えません。
 本来ならば全体が丸い赤い輪郭の中で視界が開けるはずですが、横部分も視界が狭く顔が中に入って行きません。 

 極めつけは下火打ちの後ろに乗り折れ曲がった頬輪

 選手の
顎が頬輪に乗っかっても良いのですか?
 
顎先端が頬輪に当たるなど論外で、これでは顎も正しい位置に決まらない。


 面縁革から大きく内側に張り出した頬輪(内輪) 
 顔の頬部分より顔前面に頬輪が当たる。
 必然的に顔の入りが浅くなり、頭が後ろに出て、面が前に突き出た状態になる。
 
上上画像面や右画像の名人三枝弘煕氏の面と比べてください


 
(内輪)だから内側に取り付けられておれば問題ない! と嘯く専門店がある。 

 ならば(頬輪)”ほほわ”とは言わないのか? 
 頬輪は頬に掛からなくても良いのでしょうか?
 ”内輪”ならどんな形をしていてもどんな付け方をしていても、面の内側に付けてあれば良いのですね?
 
上面画像、下部の”火打ち”は頬輪に邪魔されて直接顎に当たらないのですが、天地の地なら下部にあるからそれでよいのでしょうか?

 「部品名の保存」の大切さがここでも見られます。 確かに面の内側についておれば内輪(うちわ)で正しいのかも、間違いではないのかもしれません。 しかし頬輪となると頬に付かなくては”頬輪”になら無いから必然的に頬に掛かるよう取り付けられなければなりません。




 なぜこれほどまでに問題にするのか? 答えは下図にあります。
  顔入りが悪いと物見の横棒に上下目線が遮られ上下視界が狭まります。  (面物見の位置が上下目線と合致した場合です)

  顔入りが良ければ相手との間合いの中、竹刀の剣先から手元まで見えますが1cm後ろに下がると視野が約1度狭くなります。
  (安全性向上のため昨今では物見の距離軽量面金では13.5ミリ、チタン面金では14ミリで作られています)
 目線まで8cm時の視角度と10cm時の視角度では約2度の違いが出て、顔が後ろに下がれば相手の手元か剣先かが見えにくくなります。

 さらに面の重心も前にかかり面が重く感じます。
 顔が後ろに下がる事により面布団後方に頭部が出て、結果的に布団幅が広い物が求められ、さらに重量が増し良いことは何もありません。

 面下部は顎入りが頬輪に邪魔され、面下部が前に出て斜めに面を着装するなんて論外です。
 
 左の面画像で物見部分の横距離(幅)を見比べると、頬輪の取り付け方の違いで横幅距離の違いにより視野角の違いが良く判る。
 (左図、赤い部分の出っ張った頬輪の見え方で視界の違いが歴然) 

 上から見て横幅の狭い頬輪に邪魔されて、横幅視界が狭められています。 
 これでは相手の少しの左右変化に対してでも顔を多く傾けねばなりません。 
 又、顔を動かしても頬輪の変な形により面と顔の動きが一体化せず、相手の速い動きに対しての追従性がさらに悪化します。  

 その上顔が中に入って行かないので目の中心点が後ろに下がり余計視野が狭められる。 なおかつ面の前部分の重さが増し、左右の面動きへの追従性が悪くなる。


顔入りの良さで視界が極端に広がる様子がわかると思います。


「面」はそのすべてを頬輪で支えます。  そして火打ちは面の前後方向への位置決め補助部品。
面を自在に顔の一部として違和感なく使えるようにするには、頭(顔)と頬輪との一体感が要求されます。

面を自分の体の一部として使える事こそ剣士の求める馴染みと考えますが如何?

 兜には”面頬”という部品があります。 これを着装すると顔の表情が見えないので着装画像はあまり出回っておらず一般的に知られていませんが、 ”面頬”に一部品だけで明珍家の家伝書があるくらい重要部品です。 
 この面頬に喉元を守る部品を取り付けた事から頬輪に2重顎を取り付けた面が出来たと思われます。 

剣道防具面の”頬輪”も、そして”火打ち”もその名称を大切に護って行きたいと思います。
そして外観。      これが何とか名人作という手刺し高級面?  どこのどういう名人が作ったか顔が見たい。
   
左側画像、 布団力革(耳革)の閉じ口から布団上に向かって刺し目を見ると、2刺し目も中側に食い込んで閉じてある。
右側画像、 これも右上部が膨らみ、そして物見位置が中側に歪んで食い込んで閉じ、左同様力革に向かって上に歪んで行く。

何を考えて、どこを見て面仕立てをしているのか?  こんな名人作の面は見たことがないし、これが名人の面では情けない。
此の面が被れるほど、これほど細部に歪んだ顔の持ち主に筆者は未だお目に掛かったことはありません。

手刺し防具は1.5分刺しなら誤差は1.5分範囲以内(4.5mm)1.2分なら1.2分以内(3.6mm)が常識、こんな仕立ては論外。 

顔周りや顔かたちはもとより顔の歪みや物見の歪み、目線の左右誤差等があっても、外見は何事無く仕立てるのが面職人の腕。

こんな面は手刺し面を仕立てる職人の仕事ではない。