やぶにらみ見聞録

爪がもげた      

 職人会事務局様

 こんにちは 変わったことを尋ねますが、子供の爪が3本もげてきています。
病院に行って見てもらうと、剣道の防具の甲手のせいだというのですが、今迄そういう事例はあるのでしょうか?
 小学生で剣道は4年やっています。  甲手は2年前に新しいのに変えました。
お手数ですが、事例がありましたらお教え下さい。
  それは衝撃的な「職人会」への問い合わせメールでした。
剣道は一番安全なスポーツだと言う自負心が根本から揺らぐ気がしました。 しばらくは信じられませんでした。

 しかしながら冷静になって判断する必要があり、あえて当ペ−ジ上に取り上げることにしました。

 竹刀の握り易さだけの追求なら素手が1番でしょうが、それでは拳も甲も手のひらさえ痛め、竹刀の打突による怪我を防ぐことが出来ません。

 剣道は怪我から身を守る防具を付けて愉しむ格技ですから、防具の役目を果たさない様な甲手はそれこそ危険です。

その甲手が原因で「爪がもげた」等もってのほかです。

 想像するに、甲手の基本から逸脱した甲手にも原因があると思えます。
具体的には甲部分(毛詰め(芯綿)のしてある部分)側の内側に手全体が入らず手の内革に出てしまい、指先が手の内側に飛び出した状態と思われます。
 
甲手の作りが悪く、手の内革が大きくて内側に指や指先が出ており、指先が守られていない。

販売店も配慮と基礎知識が不足であったようにも思われます。
又、メ−カ−側も甲手の基礎知識が不足しているようにも感じます。
手の指が甲の中にすっぽりと収まって手の内が膨らんでいない甲手
 指が手の内側に押し出されて爪先が出ている状態の甲手
同じように見える甲手でもその作り方により大きく違っています。
上の手の内茶革の甲手と、手の内白革の甲手は一見同じサイズに見えるでしょう。 ともすると手の内白の甲手の方が小さく見えますが、手にはめてみると大違い。  良い甲手の見分け参考例

  甲手は甲革「一番外側の部分{写真の黄色部分}」と、いせ台「甲革を糊付けして膨らみを持たせ、中に鹿毛などの芯材を入れる空間を作る{写真の黒い部分}」、手の内「竹刀を握る部分」の3点のバランスで握り易さと遣い易さが大きく変わります。
これこそ「職人の世界」

ここが日本の甲手の職人さん達の技術を発揮する重要ポイントで、それぞれの流派や使い方にあった甲手を、剣士の皆様の個人個人の好みや使い方に合わせ日夜研究して製作しています。

日本各地の職人さん達が各自の工夫で部分部分のポイントを決め、個人個人のサイズに合わせ作っています。

初心者、中級者用においても、竹刀の太さは決まっていますから、握りポイントを重点に置いてそれぞれ工夫して作っています。
 本物の職人は手の物差しで剣道具を作ります。

これからの若い剣士の皆様が流行の甲手を求めるのは理解できますが、防具の本物を知ればその様なアブノーマルな甲手は選ばないはずです。

新品の場合だけでなく、手の内張り替え修理時にも同様の恐れがあります。
元の形、大きさを考慮に入れず、そのまま基本型通りの物を(元の型より大きい物)張り込んだ時も同様結果が出ます 
 

   5月京都大会で京都政春武道具店にて拝見した、
 筆者が勝手に師匠とあがめている三枝弘煕氏の甲手
 「弘煕」
 
 彼は竹刀の握りを重要視し、手の内革は白張りしか使いません。
「山根先生」 無断で写真を撮らせていただいたご無礼をお許し下さい。
   
   左が「弘煕」 甲手       右が「明山」 甲手